少し以前のことですが,あるブログを読んでいて,フライパンでお好み焼きを焼くときの,不思議な現象について知りました.(当ブログに,時折コメントを寄せてくださる方のブログです.)
このブログには,次のような記述がありました[2].
「お好み焼きをフライパンで焼いているとき、焼いている面がある程度固まったかどうか確かめるべくフライパンを回すように揺すって確かめます(よね?)。もうひっくり返せるくらいに焼けていればお好み焼きはフライパンの上で滑るように回ってくれます。でも半焼けだと滑らない、それで焼け具合を確かめるのですが…。
さて、この確認動作の際に生じる現象があります。hiwa嬢が指摘してくれたのですが、『フライパンを回すように揺らすと、良い頃合いに焼けたお好み焼きは逆方向に回りだす』。
おお、慣性の法則に逆らっている…かのごとく、回るではありませんか。」
[2]niwatadumi;袖ケ浦在住非破壊検査屋,フライパンを回すとお好み焼きは逆回転,2011/11/22付
https://niwatadumi.at.webry.info/201111/article_7.html
★フライパンを右に回すと,調理物は左に回る
この現象を確認してみようと,フライパンでお好み焼きを焼いてみたのですが,うまくいきませんでした.お好み焼きが,フライパンに焦げ付いてしまったのです.このため,フライパンを回しても,お好み焼きは回りませんでした.
仕方がないので,お好み焼きの代わりに,粉ミルクのフタを使って,実験してみました.フライパンの上にフタを載せて,フライパンを,大きく円を描くように動かします.そのときの動画が,下です.
最初,フライパンを,時計回り(CW;Clock wise)に回します.すると,フタは,反時計回り(CCW;Counter clock wise)に回転を始めます.
しばらくして,フライパンを止め,今度は反時計回り(CCW)に回します.そうすると,フタは,時計回り(CW)に回ります.
以上のように,フライパンの回転方向とフタの回転方向は,逆方向になっていることが,確認できました.
★ガムテープと缶詰を使った実験
なぜ,フライパンと調理物の回転方向が,逆になるのでしょうか.
現象を解明するために,下図1のような実験セットを準備しました.
<図1>

写真右は,ガムテープの底面に,コルクの円板を取り付けたものです.フライパンの代わりです.
写真左は,缶詰です.調理物(お好み焼き)の代わりです.
ガムテープの中(コルク板の上)に,缶詰を置いて,ガムテープを回してみます.このときの様子を,下の動画に示します.
フライパンのときと同様に,ガムテープをCWに回すと,缶詰はCCWに回ります.逆に,ガムテープがCCWだと,缶詰はCWに回ります.
回転の様子を見ていると,どうも,ガムテープの壁面(内周面)が,缶詰の回転に関係していそうに思えます.そこで,ガムテープを外して,コルク板だけの上に,缶詰を載せてみました.
この状態で,コルク板を回したときの様子が,下の動画です.
缶詰は,慣性のためでしょうか,ほとんど回転しません.この様子から,やはり,缶詰の回転には,ガムテープの壁面が必要なのだと思われます.
今度は,コルク板をなくして,ガムテープだけにして試してみます.缶詰を直接,机の上に置き,ガムテープをかぶせます.この状態で,ガムテープを回してみます.
この場合は,見事に缶詰は回転しました.回転の方向は,ガムテープと缶詰で,やはり逆になっています.
以上の実験から,ガムテープの中の缶詰,あるいはフライパンの中の調理物の回転には,ガムテープあるいはフライパンの壁面の存在が,大きな役割を果たしていそうだと推察されます.
★なぜ回転が反対になるか?
ガムテープの壁面が,缶詰の回転に,どのように関わっているのか,考察してみます.
下図2のように,ガムテープの中心が,缶詰の中心から見て6時の方向にある状態を考えます.この状態から,缶詰の中心回りに,ガムテープの中心を回転(公転)させます.ガムテープの回転方向は,CW(時計回り)とします.また,缶詰の中心は,常に同じ位置にあると仮定します(缶詰が十分重ければ,この仮定は成り立つと思われます).
<図2>

最初,ガムテープの中心は,缶詰の中心から見て6時の方向にあります(図3).回転を始めると,ガムテープ全体は,左方向に動き出します.
このとき,缶詰は,上端において,ガムテープの壁面と接触しています.ガムテープ全体は左方向に動こうとしていますから,缶詰の上端は,左方向の摩擦力を受けることになります.この摩擦力によって,缶詰は,CCW(反時計回り)のモーメントを受けます.
<図3>

次いで,ガムテープの中心は,缶詰の中心から見て9時の方向まで移動します(図4).このときは,缶詰は右端で上向きの摩擦力を受けます.この摩擦力によって缶詰が受けるモーメントは,やはりCCWです.
<図4>

ガムテープの中心が12時の方向に移動する(図5)と,缶詰は下端で右向きの摩擦力を受けます.これによって缶詰は,CCWのモーメントを受けます.
<図5>

最後に,ガムテープの中心が3時の方向のとき(図6)です.缶詰は左端で下向きの摩擦力を受けます.モーメントの方向は,CCWです.
<図6>

以上のように,ガムテープがCW(時計回り)に回転(公転)する間じゅう,缶詰はCCW(反時計回り)のモーメントを受け続けます.このため,缶詰は,CCWに回転(自転)することになります.
以上のように,ガムテープの壁面から受ける力によって,缶詰は,ガムテープと反対方向に回転させられていると,考えられます.
フライパンのお好み焼きが逆に回るのも,同様の理由だと考えられます.
★「超音波モータ」と似ている
この回転の原理,何かに似ているなあ,と思いました.
「超音波モータ」です.
リング型の超音波モータでは,回転子の外側をとりまく,円環状の振動子に進行波を与えます.この振動子が,回転子に接触することで,回転子を回転駆動するのです.このとき,進行波の方向と,回転子の移動方向が,逆になります.(詳しくは,文献[3]の図1を参照ください.)
[3]前野;超音波モータ,日本ロボット学会誌,v.21,n.1,pp.10-14,(2003)
https://lab.sdm.keio.ac.jp/maenolab/previoushp/Maeno/rsj2001_USM.pdf
ガムテープを振動子,缶詰を回転子と置き換えると,超音波モータと良く似ています.(細かいメカニズムは違うような気がしますが,結果的に観察される現象が,良く似ています.)
【今回の結論】
フライパンを右に回す(公転)と,お好み焼きは左に回り(自転)ます.
これは,フライパンの壁面から受ける力によって,お好み焼きが回転させられるためと考えられます.
我が家のフライパンは,お好み焼きに限らず,あらゆる料理が焦げ付きます.調理する人に問題があるのかもしれません.
応援よろしくお願いします.
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このブログには,次のような記述がありました[2].
「お好み焼きをフライパンで焼いているとき、焼いている面がある程度固まったかどうか確かめるべくフライパンを回すように揺すって確かめます(よね?)。もうひっくり返せるくらいに焼けていればお好み焼きはフライパンの上で滑るように回ってくれます。でも半焼けだと滑らない、それで焼け具合を確かめるのですが…。
さて、この確認動作の際に生じる現象があります。hiwa嬢が指摘してくれたのですが、『フライパンを回すように揺らすと、良い頃合いに焼けたお好み焼きは逆方向に回りだす』。
おお、慣性の法則に逆らっている…かのごとく、回るではありませんか。」
[2]niwatadumi;袖ケ浦在住非破壊検査屋,フライパンを回すとお好み焼きは逆回転,2011/11/22付
https://niwatadumi.at.webry.info/201111/article_7.html
★フライパンを右に回すと,調理物は左に回る
この現象を確認してみようと,フライパンでお好み焼きを焼いてみたのですが,うまくいきませんでした.お好み焼きが,フライパンに焦げ付いてしまったのです.このため,フライパンを回しても,お好み焼きは回りませんでした.
仕方がないので,お好み焼きの代わりに,粉ミルクのフタを使って,実験してみました.フライパンの上にフタを載せて,フライパンを,大きく円を描くように動かします.そのときの動画が,下です.
最初,フライパンを,時計回り(CW;Clock wise)に回します.すると,フタは,反時計回り(CCW;Counter clock wise)に回転を始めます.
しばらくして,フライパンを止め,今度は反時計回り(CCW)に回します.そうすると,フタは,時計回り(CW)に回ります.
以上のように,フライパンの回転方向とフタの回転方向は,逆方向になっていることが,確認できました.
★ガムテープと缶詰を使った実験
なぜ,フライパンと調理物の回転方向が,逆になるのでしょうか.
現象を解明するために,下図1のような実験セットを準備しました.
<図1>

写真右は,ガムテープの底面に,コルクの円板を取り付けたものです.フライパンの代わりです.
写真左は,缶詰です.調理物(お好み焼き)の代わりです.
ガムテープの中(コルク板の上)に,缶詰を置いて,ガムテープを回してみます.このときの様子を,下の動画に示します.
フライパンのときと同様に,ガムテープをCWに回すと,缶詰はCCWに回ります.逆に,ガムテープがCCWだと,缶詰はCWに回ります.
回転の様子を見ていると,どうも,ガムテープの壁面(内周面)が,缶詰の回転に関係していそうに思えます.そこで,ガムテープを外して,コルク板だけの上に,缶詰を載せてみました.
この状態で,コルク板を回したときの様子が,下の動画です.
缶詰は,慣性のためでしょうか,ほとんど回転しません.この様子から,やはり,缶詰の回転には,ガムテープの壁面が必要なのだと思われます.
今度は,コルク板をなくして,ガムテープだけにして試してみます.缶詰を直接,机の上に置き,ガムテープをかぶせます.この状態で,ガムテープを回してみます.
この場合は,見事に缶詰は回転しました.回転の方向は,ガムテープと缶詰で,やはり逆になっています.
以上の実験から,ガムテープの中の缶詰,あるいはフライパンの中の調理物の回転には,ガムテープあるいはフライパンの壁面の存在が,大きな役割を果たしていそうだと推察されます.
★なぜ回転が反対になるか?
ガムテープの壁面が,缶詰の回転に,どのように関わっているのか,考察してみます.
下図2のように,ガムテープの中心が,缶詰の中心から見て6時の方向にある状態を考えます.この状態から,缶詰の中心回りに,ガムテープの中心を回転(公転)させます.ガムテープの回転方向は,CW(時計回り)とします.また,缶詰の中心は,常に同じ位置にあると仮定します(缶詰が十分重ければ,この仮定は成り立つと思われます).
<図2>

最初,ガムテープの中心は,缶詰の中心から見て6時の方向にあります(図3).回転を始めると,ガムテープ全体は,左方向に動き出します.
このとき,缶詰は,上端において,ガムテープの壁面と接触しています.ガムテープ全体は左方向に動こうとしていますから,缶詰の上端は,左方向の摩擦力を受けることになります.この摩擦力によって,缶詰は,CCW(反時計回り)のモーメントを受けます.
<図3>

次いで,ガムテープの中心は,缶詰の中心から見て9時の方向まで移動します(図4).このときは,缶詰は右端で上向きの摩擦力を受けます.この摩擦力によって缶詰が受けるモーメントは,やはりCCWです.
<図4>

ガムテープの中心が12時の方向に移動する(図5)と,缶詰は下端で右向きの摩擦力を受けます.これによって缶詰は,CCWのモーメントを受けます.
<図5>

最後に,ガムテープの中心が3時の方向のとき(図6)です.缶詰は左端で下向きの摩擦力を受けます.モーメントの方向は,CCWです.
<図6>

以上のように,ガムテープがCW(時計回り)に回転(公転)する間じゅう,缶詰はCCW(反時計回り)のモーメントを受け続けます.このため,缶詰は,CCWに回転(自転)することになります.
以上のように,ガムテープの壁面から受ける力によって,缶詰は,ガムテープと反対方向に回転させられていると,考えられます.
フライパンのお好み焼きが逆に回るのも,同様の理由だと考えられます.
★「超音波モータ」と似ている
この回転の原理,何かに似ているなあ,と思いました.
「超音波モータ」です.
リング型の超音波モータでは,回転子の外側をとりまく,円環状の振動子に進行波を与えます.この振動子が,回転子に接触することで,回転子を回転駆動するのです.このとき,進行波の方向と,回転子の移動方向が,逆になります.(詳しくは,文献[3]の図1を参照ください.)
[3]前野;超音波モータ,日本ロボット学会誌,v.21,n.1,pp.10-14,(2003)
https://lab.sdm.keio.ac.jp/maenolab/previoushp/Maeno/rsj2001_USM.pdf
ガムテープを振動子,缶詰を回転子と置き換えると,超音波モータと良く似ています.(細かいメカニズムは違うような気がしますが,結果的に観察される現象が,良く似ています.)
【今回の結論】
フライパンを右に回す(公転)と,お好み焼きは左に回り(自転)ます.
これは,フライパンの壁面から受ける力によって,お好み焼きが回転させられるためと考えられます.
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![]() こんばんは。
当方のささやかな疑問を取り上げていただきありがとうございます。 いつもながらの的確な手順に沿った考察実験、たいへん面白かったです。結果だけでなく論の進め方も、勉強になりました。 動画は現象を指摘してくれた小学5年生のムスメに見せてあげたいと思います。今は難しいことは解らずとも、壁(との摩擦)が必要ということは直感的に判るでしょう。 今日の料理の方は…まあ、反面教師という意味で勉強させていただきました…かな(笑)。 今後ともブログを通じて、よろしくお付き合いください。 niwatadumi | URL | 2011/12/21/Wed 22:57 [編集]
![]() >niwatadumiさん
こんばんは。 こちらこそ、よろしくお願いします。 育児休業中でヒマがあるのをいいことに、こんな実験ばかりやって遊んでいます。おかげで、料理の腕はちっとも上達しません。。。 マツジョン | URL | 2011/12/22/Thu 17:43 [編集]
![]() こんばんは
面白いですね。 この動き、イメージとしては遊星歯車に近いといえるのではないでしょうか。 超音波モーターで、波の進行方向と接触させたものの進行方向が逆になるのは、レイリー波(板波)の振動様式によるものと考えられます。レイリー波では、波の進行方向が左から右だとすると表面の点は反時計回りに回転運動をしています。つまり凸側では、右から左。「URL」に私が作ったソフトでレイリー波のアニメーションを見ることができます。 ![]() > SUBAL さん
こんばんは. プログラム拝見しました.アニメーションで見ると,波全体の動きと,各点の動きの関係が分かりやすく,とても面白いです.ありがとうございます. 20年ほど前,PC-8801(8ビット)というパソコンで,いくつかの周波数のサイン波を合成したグラフを描かせたことを思い出しました.数百点のプロットをするだけで,10分くらいかかった記憶があります. あの頃を思い出すと,パソコンの進歩のスピードは,とんでもないものだと感じます. マツジョン | URL | 2011/12/24/Sat 00:34 [編集]
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