【今日の料理】 2011/10/17 夕食
今日は,妻と娘(8.2ヶ月)は,育児仲間とお茶会です.会場は,我が家です.妻と娘を含めて,4組のママ&赤ちゃんが,集まったそうです.
その間,私は,外出してドライブ.「川の博物館」を目指したのですが,今日は休館でした.仕方がないので,長瀞(ながとろ)まで足を伸ばし,観光を楽しみました.岩場を歩いて,良い運動になりました.

★米飯
★みそ汁,かぶ
★鮭のマリネ蒸し
鮭を玉ねぎとオリーブオイルで漬けた後,まいたけを加えて,蒸しました.しょうゆをかけて食べると,美味でした.
★ゆで卵
ゆで時間が足りず,温泉卵のようになってしまいました.
★ナシ
料理の応援,お願いします→
(男の料理)
人気ブログランキングへ
育児の応援,お願いします→
(パパ育児)
FC2 Blog Ranking
【今日の料理工学】 ふっ素樹脂がはがれる原因は?~フライパンのFTA
前回まで,フライパンなどの調理器具に用いられる「ふっ素樹脂コーティング(ふっ素樹脂加工)」について,その種類を調べました.
ふっ素樹脂コーティングの調理器具は,長期間使用していると(場合によっては短期間でも),コーティング(被膜)に「はがれ」などの損傷が生じてきます(下図1).
<図1>

良いふっ素樹脂コーティングとは,このような損傷が生じにくいものと,考えられます.今回は,このような損傷は,どうして生じてしまうのかを,考察してみます.
★なぜ,ふっ素樹脂コーティングが損傷するか?
以前,「なぜ包丁は研がなければいけないのか?」では,FTAの手法を使って,包丁の先端形状がくずれる原因を考察しました.FTA(Failure Tree Analysis)は,機械部品などの破損原因を見出すために,よく用いられる手法です.ある事象の原因を,樹図のように細分化していくことを繰り返すことで,根本的な原因にたどり着くことができます(できないこともあります).
今回は,トップ事象を,「調理物がくっつく」としました.被膜の損傷のしかたに注目して,FTAを行いました.結果を,下図2に示します.
<図2>

FTA結果から,被膜の損傷が生じる直接の原因として,次の事象が導かれました.
a)熱応力の繰り返しで疲労した.
b)母材と被膜の密着性が低かった.
c)硬いものでひっかいた.
d)摩擦が繰り返された.
e)被膜にピンホールがあった.
f)被膜を過熱した.
g)被膜が汚れた.
★損傷原因の詳細
これらのひとつひとつについて,詳細を考察してみます.
a)熱応力の繰り返しで疲労した.
ふっ素樹脂コーティングのされた調理器具,たとえばフライパンは,当然ながら,加熱と冷却を繰り返して使用されます.フライパンの母材は,多くはアルミニウムです.ふっ素樹脂とアルミニウムの線膨張係数は,大きく異なります.したがって,加熱と冷却を繰り返すと,ふっ素樹脂とアルミニウムの界面近くには,熱応力が繰り返し発生します.
ふっ素樹脂およびアルミニウムの線膨張係数は,次の通りです.
・ふっ素樹脂 :10×10^-5 [1/K]…PTFEの値[1]
・アルミニウム:2.4×10^-5 [1/K]…アルミ合金の代表値[2]
[1]ダイキン工業;ダイキンのフッ素樹脂,カタログ,GFP-1ab,(2002)
https://www.daikin.co.jp/chm/catalog/index.html#resin
[2]畑村編;続・実際の設計,日刊工業新聞社,(1992)
つまり,加熱したときに,ふっ素樹脂はアルミニウムの約4倍伸びようとします.しかし,ふっ素樹脂はアルミニウムに接着されており,拘束されますので,伸びることができません.したがって,ふっ素樹脂が応力(圧縮応力)を受けることになります.
応力を概算してみます.以下を仮定します.
・フライパンがΔT=100[℃]だけ,室温から加熱されるとする.
・アルミニウムは,温度によっても応力によっても,変形しないとする.(アルミニウムの線膨張係数<<ふっ素樹脂の線膨張係数,アルミニウムのヤング率>>ふっ素樹脂のヤング率,による仮定.)
・ふっ素樹脂のヤング率 :E=390[MPa]…PTFEの引張弾性率[1]
・ふっ素樹脂の線膨張係数:α=10×10^-5 [1/K]…PTFEの値[1]
ふっ素樹脂のひずみεは,次のようになります.
ε=εt+εf
ここで,εt:温度上昇によるひずみ,εf:応力σ[MPa]によるひずみで,次式で表せます.(いずれも,符号が正=伸びる.)
・εt=α×ΔT
・εf=σ/E
また,アルミニウムが変形しないので,アルミニウムに接着されたふっ素樹脂も,伸びることができません.すなわち,
ε=0
以上から,応力σは,次式で計算できます.(符号のマイナスは,圧縮応力を受けることを意味します.)
σ=-α×ΔT×E=-3.9[MPa]
ふっ素樹脂の引張強さは,PTFEで20~45[MPa]とあります[1].上述の応力の大きさ3.9[MPa]は,引張強さの1/10程度です.残念ながら,ふっ素樹脂の疲労強度については,データが見つかりませんでした.しかし,一般的な樹脂材料(ポリアミド,ポリプロピレン,など)の疲労曲線(S-N線図)[3]を見ると,疲労強度(疲労限度)は,引張強さの1/2程度のようです.
[3]日本材料科学会編;材料強度学,日本材料科学会,(1994)
してみると,引張強さの1/10程度の応力であれば,疲労強度よりも小さい応力と推定できます.したがって,熱応力によるふっ素樹脂の疲労破壊は,あまり心配しなくても良いかもしれません.(ただし,熱応力によって,ふっ素樹脂とアルミニウムの「接着」が破壊される可能性は,あるかもしれません.)
b)母材と被膜の密着性が低かった.
ふっ素樹脂は,他物質との付着性が低いことを,特徴とします.つまり,ふっ素樹脂コーティングは,もともと母材からはがれやすい性質を持つと言えます.
ふっ素樹脂コーティングをはがれにくくするために,以下のような工夫がなされているようです[4].
・被コーティング面を,脱脂または空焼きしておく.
・被コーティング面を,粗しておく(ショットブラストなど).
・プライマーと呼ばれる下地剤を下塗りする.
・塗装時の環境や塗装用エアの中に,異物がないように注意する.
[4]ダイキン工業;Product Information,ポリフロンPTFEエナメル
https://www.daikin.co.jp/chm/products/coating/coating_02.html
こうした工夫を行いつつ,きちんと管理した工程を踏まないと,母材と被膜の間に異物(ゴミ,油,など)が残ったりして,被膜の密着性が低下しそうです.
c)硬いものでひっかいた.
ふっ素樹脂は,硬度はあまり高くありません.技術資料[4]を見ると,硬度は「鉛筆硬度」で「B~HB」とあります.つまり,目安として,鉛筆よりも硬いものでひっかくと,キズがつく可能性があります.
このような「硬いもの」として,例えば,次のようなものがあります.
・金属製のヘラ,フライ返し
・金属製のフォーク,ナイフ
・陶磁器の食器
・他の鍋,フライパン
ふっ素樹脂フライパンの説明書きには「金属製のフライ返しを使用しない」と,よく書かれています.このため,フライ返しに関しては,注意している方も多いと思います.しかし,フライパンを洗うときや収納するときに,他の食器や鍋と重ねてしまうことは,たびたびあるのではないでしょうか.(フライパンや鍋を重ねて収納する写真を,よく見かけます.)
ふっ素樹脂コーティングのフライパンは,収納にも神経を使わないといけないようです.
d)摩擦が繰り返された.
ふっ素樹脂コーティングは,他の物質の付着性が低く,摩擦係数も低いのが特徴です.しかし,耐摩耗性は,あまり高くありません.ふっ素樹脂は,ふっ素樹脂同士の結びつきも弱く,分子が層をなしたような構造(バンド構造)になっているため,分子の層がはがれやすいのです[5].
[5]日本潤滑学会編;新材料のトライボロジー,養賢堂,(1991)
摩耗には,「アブレシブ摩耗」と「凝着摩耗」があります.アブレシブ摩耗は,硬いものでひっかくことで生じる摩耗です.これは,c)の「硬いものでひっかいた」ことによる損傷と,基本メカニズムは同じです.
一方の凝着摩耗は,相手物質が硬くなくても,生じます.物質の一部が相手物質に移着することが,凝着摩耗の原因です.ふっ素樹脂は,樹脂の中では,凝着摩耗が起こりやすい物質のようです[5].
摩耗が生じると,下図3のように,母材が露出します.あるいは,耐摩耗性を高めるために硬質材を入れたコーティングでは,硬質材が露出します.このため,調理物がくっつきやすくなります.
<図3>

摩耗の生じやすさの程度を示す指標として,「比摩耗量」があります.比摩耗量は,単位荷重・単位距離あたりの摩耗体積として表されます.単位は[mm^3/N・m]が,よく用いられるようです.文献[5]によると,ふっ素樹脂の比摩耗量は,W=10^-4[mm^3/N・m]程度です.ただし,比摩耗量は,条件によって大きくばらつく値で,1桁くらいの違いは簡単に生じることに注意が必要です.
実際の使用条件で,どの程度の摩耗が生じるか,検討してみます.以下を仮定します.
・軟らかいヘラで,コーティング表面を摩擦する.
・ヘラの押し付け力:F=10[N](≒1[kgf])
・ヘラの幅 :b=60[mm]
・摩擦する長さ :l=200[mm]
・1往復の摩擦長さ:L=2×l=0.4[m/往復]
・摩擦の頻度 :N=1日に100往復×1年に300日=30000往復/年
1年間の摩擦によって摩耗する体積V[mm^3]は,次式で計算できます.
V=W×F×L×N
摩耗するコーティングの厚さh[mm]は,次式となります.
h=V/(b×l)
したがって,1年間の摩擦によって摩耗するコーティングの厚さは,
h=(W×F×L×N)/(b×l)=0.001[mm]=1[μm]
ふっ素樹脂コーティングの厚さは,30μm程度のようです(2層の場合,プライマー層とトップコートの合計[4]).したがって,上のような使い方であれば,凝着摩耗によってコーティングがなくなるには,約30年かかります.実用上は,起こりそうに思えません.しかし,比摩耗量が,条件によって1桁くらい変わることを考えると,数年で完全に摩耗する可能性も,あるかもしれません.
また,上図3の通り,硬質材を含むコーティングでは,コーティングがなくならなくても,硬質材が露出します.このため,より短い期間で,調理物がくっつきやすくなるかもしれません.これを防ぐためには,硬質材を含む層の上に,硬質材を含まない層を,重ねて形成する必要があります.
e)被膜にピンホールがあった.
ふっ素樹脂コーティングは,ふっ素樹脂塗料を吹き付けた後,乾燥し,高温で焼成(焼付け)することで,形成されます.ふっ素樹脂塗料は,微細なふっ素樹脂の粒子を,水などの溶媒に分散させたもののようです.乾燥と焼成によって,溶媒を飛ばして,ふっ素樹脂の被膜が得られます.ふっ素樹脂コーティングの厚さは,30μm程度のようです(2層の場合,プライマー層とトップコートの合計[4]).
焼成温度は380℃で,融点の約330を超えます.したがって,ふっ素樹脂の粒子は,互いに溶け合って,結びつくと思われます.とはいえ,もともとは粒子ですので,粒子が結びついた後も,間に空隙が残ることを,避けられそうにありません.こうした空隙が,コーティング表面から母材までつながると,ピンホールになってしまいます.塗料の攪拌の不十分,塗装のムラ,焼成温度や焼成時間の不適切,などがあると,こうしたピンホールが生じる危険が増しそうです.
ピンホールを防止するためには,ふっ素樹脂メーカーの推奨する方法を守るとともに,工程の厳密な管理が必要になりそうです.
また,摩耗によって被膜が薄くなると,ピンホールの発生の危険が高まりそうです.被膜は,厚いものが良さそうです.
f)被膜を過熱した.
ふっ素樹脂の融点は,327℃だそうです(PTFEの値[1]).ふっ素樹脂コーティングを過熱すると,以下の現象が起こるそうです[6].
・260℃で,色が変わり,難付着機能が低下する.
・さらに過熱すると,分解して煙が出る(約350℃).
[6]デュポン;Key Questions About Teflon(R) Nonstick Coatings
https://www2.dupont.com/Teflon/en_US/products/safety/key_questions.html
ただし,油は約200℃で煙が出るので,通常は,ここまでの過熱はありえない,と言っています[6].ただ,多くのふっ素樹脂フライパンでは,空だきや強火での調理を禁止しているようです.したがって,こうした使用方法は,避けたほうが無難そうです.
g)被膜が汚れた.
ふっ素樹脂コーティングの上に汚れが沈着すると,この汚れに付着する形で,調理物がくっつくことがあり得ます.ただ,これは,洗えば落ちますので,問題なさそうです.
★どの損傷原因が,支配的か?
以上から,上に挙げた各損傷原因の「起こりそうな度合い」は,次のように評価できます.
a)熱応力の繰り返しで疲労した …実用上は,あまり起こりそうにない.
b)母材と被膜の密着性が低かった…本質的に不可避だが,工程で低減できる.
c)硬いものでひっかいた …硬いものを使わなければ,回避できる.
d)摩擦が繰り返された …本質的に不可避だが,被膜を厚くすれば低減できる.
e)被膜にピンホールがあった …本質的に不可避だが,工程で低減できる.
f)被膜を過熱した …空だき・強火調理を避ければ,回避できる.
g)被膜が汚れた …洗えば,回避できる.
母材との密着不足や,被膜のピンホールは,ふっ素樹脂コーティングの性質や工程上,仕方ないもので,完全に避けることは難しそうです.こうした「不可避の微小欠陥」が,ふっ素樹脂コーティングのはがれる主要因だと思われます.少しでも欠陥の少ない製品を得るためには,品質が高く,信頼できるメーカーの製造したものを選ぶしかなさそうです.
また,凝着摩耗による被膜の劣化も避けられません.被膜が薄くなると,ピンホールも発生しやすくなりそうです.表面層の被膜が厚く,表面層には硬質材が入っていないものを,選ぶ必要がありそうです.
その他の要因については,使い方で回避できそうなので,あまり重要ではなさそうです.
★ふっ素樹脂コーティングを長持ちさせるには
ふっ素樹脂コーティングを長持ちさせるには,以下の注意が必要になりそうです.
●使い方に関して
・調理中や洗浄中,収納時に,硬い器具(金属ヘラ,陶器類,他の鍋)との接触は避ける.
・空だきや強火での使用は,避ける.
・使った後は,よく洗う.
・長期間の使用による損傷は,ある程度仕方ないと,あきらめる.
●選び方に関して
・信頼できるメーカーのものを選ぶ.
・硬質層を含むコーティングがなされたものを選ぶ.
・最上層のコーティングが硬質層でなく,被膜の厚さが厚いものを選ぶ.
【今回の結論】
ふっ素樹脂コーティングは,「必ずはがれるもの」と認識したほうが良さそうです.
少しでも長く使うには,信頼できるメーカーの製品を用いることが,確実な方法のようです.
ご訪問ありがとうございます.応援よろしくお願いします.
↓↓↓↓↓↓↓↓

にほんブログ村
今日は,妻と娘(8.2ヶ月)は,育児仲間とお茶会です.会場は,我が家です.妻と娘を含めて,4組のママ&赤ちゃんが,集まったそうです.
その間,私は,外出してドライブ.「川の博物館」を目指したのですが,今日は休館でした.仕方がないので,長瀞(ながとろ)まで足を伸ばし,観光を楽しみました.岩場を歩いて,良い運動になりました.

★米飯
★みそ汁,かぶ
★鮭のマリネ蒸し
鮭を玉ねぎとオリーブオイルで漬けた後,まいたけを加えて,蒸しました.しょうゆをかけて食べると,美味でした.
★ゆで卵
ゆで時間が足りず,温泉卵のようになってしまいました.
★ナシ
料理の応援,お願いします→

人気ブログランキングへ
育児の応援,お願いします→

FC2 Blog Ranking
【今日の料理工学】 ふっ素樹脂がはがれる原因は?~フライパンのFTA
前回まで,フライパンなどの調理器具に用いられる「ふっ素樹脂コーティング(ふっ素樹脂加工)」について,その種類を調べました.
ふっ素樹脂コーティングの調理器具は,長期間使用していると(場合によっては短期間でも),コーティング(被膜)に「はがれ」などの損傷が生じてきます(下図1).
<図1>

良いふっ素樹脂コーティングとは,このような損傷が生じにくいものと,考えられます.今回は,このような損傷は,どうして生じてしまうのかを,考察してみます.
★なぜ,ふっ素樹脂コーティングが損傷するか?
以前,「なぜ包丁は研がなければいけないのか?」では,FTAの手法を使って,包丁の先端形状がくずれる原因を考察しました.FTA(Failure Tree Analysis)は,機械部品などの破損原因を見出すために,よく用いられる手法です.ある事象の原因を,樹図のように細分化していくことを繰り返すことで,根本的な原因にたどり着くことができます(できないこともあります).
今回は,トップ事象を,「調理物がくっつく」としました.被膜の損傷のしかたに注目して,FTAを行いました.結果を,下図2に示します.
<図2>

FTA結果から,被膜の損傷が生じる直接の原因として,次の事象が導かれました.
a)熱応力の繰り返しで疲労した.
b)母材と被膜の密着性が低かった.
c)硬いものでひっかいた.
d)摩擦が繰り返された.
e)被膜にピンホールがあった.
f)被膜を過熱した.
g)被膜が汚れた.
★損傷原因の詳細
これらのひとつひとつについて,詳細を考察してみます.
a)熱応力の繰り返しで疲労した.
ふっ素樹脂コーティングのされた調理器具,たとえばフライパンは,当然ながら,加熱と冷却を繰り返して使用されます.フライパンの母材は,多くはアルミニウムです.ふっ素樹脂とアルミニウムの線膨張係数は,大きく異なります.したがって,加熱と冷却を繰り返すと,ふっ素樹脂とアルミニウムの界面近くには,熱応力が繰り返し発生します.
ふっ素樹脂およびアルミニウムの線膨張係数は,次の通りです.
・ふっ素樹脂 :10×10^-5 [1/K]…PTFEの値[1]
・アルミニウム:2.4×10^-5 [1/K]…アルミ合金の代表値[2]
[1]ダイキン工業;ダイキンのフッ素樹脂,カタログ,GFP-1ab,(2002)
https://www.daikin.co.jp/chm/catalog/index.html#resin
[2]畑村編;続・実際の設計,日刊工業新聞社,(1992)
つまり,加熱したときに,ふっ素樹脂はアルミニウムの約4倍伸びようとします.しかし,ふっ素樹脂はアルミニウムに接着されており,拘束されますので,伸びることができません.したがって,ふっ素樹脂が応力(圧縮応力)を受けることになります.
応力を概算してみます.以下を仮定します.
・フライパンがΔT=100[℃]だけ,室温から加熱されるとする.
・アルミニウムは,温度によっても応力によっても,変形しないとする.(アルミニウムの線膨張係数<<ふっ素樹脂の線膨張係数,アルミニウムのヤング率>>ふっ素樹脂のヤング率,による仮定.)
・ふっ素樹脂のヤング率 :E=390[MPa]…PTFEの引張弾性率[1]
・ふっ素樹脂の線膨張係数:α=10×10^-5 [1/K]…PTFEの値[1]
ふっ素樹脂のひずみεは,次のようになります.
ε=εt+εf
ここで,εt:温度上昇によるひずみ,εf:応力σ[MPa]によるひずみで,次式で表せます.(いずれも,符号が正=伸びる.)
・εt=α×ΔT
・εf=σ/E
また,アルミニウムが変形しないので,アルミニウムに接着されたふっ素樹脂も,伸びることができません.すなわち,
ε=0
以上から,応力σは,次式で計算できます.(符号のマイナスは,圧縮応力を受けることを意味します.)
σ=-α×ΔT×E=-3.9[MPa]
ふっ素樹脂の引張強さは,PTFEで20~45[MPa]とあります[1].上述の応力の大きさ3.9[MPa]は,引張強さの1/10程度です.残念ながら,ふっ素樹脂の疲労強度については,データが見つかりませんでした.しかし,一般的な樹脂材料(ポリアミド,ポリプロピレン,など)の疲労曲線(S-N線図)[3]を見ると,疲労強度(疲労限度)は,引張強さの1/2程度のようです.
[3]日本材料科学会編;材料強度学,日本材料科学会,(1994)
してみると,引張強さの1/10程度の応力であれば,疲労強度よりも小さい応力と推定できます.したがって,熱応力によるふっ素樹脂の疲労破壊は,あまり心配しなくても良いかもしれません.(ただし,熱応力によって,ふっ素樹脂とアルミニウムの「接着」が破壊される可能性は,あるかもしれません.)
b)母材と被膜の密着性が低かった.
ふっ素樹脂は,他物質との付着性が低いことを,特徴とします.つまり,ふっ素樹脂コーティングは,もともと母材からはがれやすい性質を持つと言えます.
ふっ素樹脂コーティングをはがれにくくするために,以下のような工夫がなされているようです[4].
・被コーティング面を,脱脂または空焼きしておく.
・被コーティング面を,粗しておく(ショットブラストなど).
・プライマーと呼ばれる下地剤を下塗りする.
・塗装時の環境や塗装用エアの中に,異物がないように注意する.
[4]ダイキン工業;Product Information,ポリフロンPTFEエナメル
https://www.daikin.co.jp/chm/products/coating/coating_02.html
こうした工夫を行いつつ,きちんと管理した工程を踏まないと,母材と被膜の間に異物(ゴミ,油,など)が残ったりして,被膜の密着性が低下しそうです.
c)硬いものでひっかいた.
ふっ素樹脂は,硬度はあまり高くありません.技術資料[4]を見ると,硬度は「鉛筆硬度」で「B~HB」とあります.つまり,目安として,鉛筆よりも硬いものでひっかくと,キズがつく可能性があります.
このような「硬いもの」として,例えば,次のようなものがあります.
・金属製のヘラ,フライ返し
・金属製のフォーク,ナイフ
・陶磁器の食器
・他の鍋,フライパン
ふっ素樹脂フライパンの説明書きには「金属製のフライ返しを使用しない」と,よく書かれています.このため,フライ返しに関しては,注意している方も多いと思います.しかし,フライパンを洗うときや収納するときに,他の食器や鍋と重ねてしまうことは,たびたびあるのではないでしょうか.(フライパンや鍋を重ねて収納する写真を,よく見かけます.)
ふっ素樹脂コーティングのフライパンは,収納にも神経を使わないといけないようです.
d)摩擦が繰り返された.
ふっ素樹脂コーティングは,他の物質の付着性が低く,摩擦係数も低いのが特徴です.しかし,耐摩耗性は,あまり高くありません.ふっ素樹脂は,ふっ素樹脂同士の結びつきも弱く,分子が層をなしたような構造(バンド構造)になっているため,分子の層がはがれやすいのです[5].
[5]日本潤滑学会編;新材料のトライボロジー,養賢堂,(1991)
摩耗には,「アブレシブ摩耗」と「凝着摩耗」があります.アブレシブ摩耗は,硬いものでひっかくことで生じる摩耗です.これは,c)の「硬いものでひっかいた」ことによる損傷と,基本メカニズムは同じです.
一方の凝着摩耗は,相手物質が硬くなくても,生じます.物質の一部が相手物質に移着することが,凝着摩耗の原因です.ふっ素樹脂は,樹脂の中では,凝着摩耗が起こりやすい物質のようです[5].
摩耗が生じると,下図3のように,母材が露出します.あるいは,耐摩耗性を高めるために硬質材を入れたコーティングでは,硬質材が露出します.このため,調理物がくっつきやすくなります.
<図3>

摩耗の生じやすさの程度を示す指標として,「比摩耗量」があります.比摩耗量は,単位荷重・単位距離あたりの摩耗体積として表されます.単位は[mm^3/N・m]が,よく用いられるようです.文献[5]によると,ふっ素樹脂の比摩耗量は,W=10^-4[mm^3/N・m]程度です.ただし,比摩耗量は,条件によって大きくばらつく値で,1桁くらいの違いは簡単に生じることに注意が必要です.
実際の使用条件で,どの程度の摩耗が生じるか,検討してみます.以下を仮定します.
・軟らかいヘラで,コーティング表面を摩擦する.
・ヘラの押し付け力:F=10[N](≒1[kgf])
・ヘラの幅 :b=60[mm]
・摩擦する長さ :l=200[mm]
・1往復の摩擦長さ:L=2×l=0.4[m/往復]
・摩擦の頻度 :N=1日に100往復×1年に300日=30000往復/年
1年間の摩擦によって摩耗する体積V[mm^3]は,次式で計算できます.
V=W×F×L×N
摩耗するコーティングの厚さh[mm]は,次式となります.
h=V/(b×l)
したがって,1年間の摩擦によって摩耗するコーティングの厚さは,
h=(W×F×L×N)/(b×l)=0.001[mm]=1[μm]
ふっ素樹脂コーティングの厚さは,30μm程度のようです(2層の場合,プライマー層とトップコートの合計[4]).したがって,上のような使い方であれば,凝着摩耗によってコーティングがなくなるには,約30年かかります.実用上は,起こりそうに思えません.しかし,比摩耗量が,条件によって1桁くらい変わることを考えると,数年で完全に摩耗する可能性も,あるかもしれません.
また,上図3の通り,硬質材を含むコーティングでは,コーティングがなくならなくても,硬質材が露出します.このため,より短い期間で,調理物がくっつきやすくなるかもしれません.これを防ぐためには,硬質材を含む層の上に,硬質材を含まない層を,重ねて形成する必要があります.
e)被膜にピンホールがあった.
ふっ素樹脂コーティングは,ふっ素樹脂塗料を吹き付けた後,乾燥し,高温で焼成(焼付け)することで,形成されます.ふっ素樹脂塗料は,微細なふっ素樹脂の粒子を,水などの溶媒に分散させたもののようです.乾燥と焼成によって,溶媒を飛ばして,ふっ素樹脂の被膜が得られます.ふっ素樹脂コーティングの厚さは,30μm程度のようです(2層の場合,プライマー層とトップコートの合計[4]).
焼成温度は380℃で,融点の約330を超えます.したがって,ふっ素樹脂の粒子は,互いに溶け合って,結びつくと思われます.とはいえ,もともとは粒子ですので,粒子が結びついた後も,間に空隙が残ることを,避けられそうにありません.こうした空隙が,コーティング表面から母材までつながると,ピンホールになってしまいます.塗料の攪拌の不十分,塗装のムラ,焼成温度や焼成時間の不適切,などがあると,こうしたピンホールが生じる危険が増しそうです.
ピンホールを防止するためには,ふっ素樹脂メーカーの推奨する方法を守るとともに,工程の厳密な管理が必要になりそうです.
また,摩耗によって被膜が薄くなると,ピンホールの発生の危険が高まりそうです.被膜は,厚いものが良さそうです.
f)被膜を過熱した.
ふっ素樹脂の融点は,327℃だそうです(PTFEの値[1]).ふっ素樹脂コーティングを過熱すると,以下の現象が起こるそうです[6].
・260℃で,色が変わり,難付着機能が低下する.
・さらに過熱すると,分解して煙が出る(約350℃).
[6]デュポン;Key Questions About Teflon(R) Nonstick Coatings
https://www2.dupont.com/Teflon/en_US/products/safety/key_questions.html
ただし,油は約200℃で煙が出るので,通常は,ここまでの過熱はありえない,と言っています[6].ただ,多くのふっ素樹脂フライパンでは,空だきや強火での調理を禁止しているようです.したがって,こうした使用方法は,避けたほうが無難そうです.
g)被膜が汚れた.
ふっ素樹脂コーティングの上に汚れが沈着すると,この汚れに付着する形で,調理物がくっつくことがあり得ます.ただ,これは,洗えば落ちますので,問題なさそうです.
★どの損傷原因が,支配的か?
以上から,上に挙げた各損傷原因の「起こりそうな度合い」は,次のように評価できます.
a)熱応力の繰り返しで疲労した …実用上は,あまり起こりそうにない.
b)母材と被膜の密着性が低かった…本質的に不可避だが,工程で低減できる.
c)硬いものでひっかいた …硬いものを使わなければ,回避できる.
d)摩擦が繰り返された …本質的に不可避だが,被膜を厚くすれば低減できる.
e)被膜にピンホールがあった …本質的に不可避だが,工程で低減できる.
f)被膜を過熱した …空だき・強火調理を避ければ,回避できる.
g)被膜が汚れた …洗えば,回避できる.
母材との密着不足や,被膜のピンホールは,ふっ素樹脂コーティングの性質や工程上,仕方ないもので,完全に避けることは難しそうです.こうした「不可避の微小欠陥」が,ふっ素樹脂コーティングのはがれる主要因だと思われます.少しでも欠陥の少ない製品を得るためには,品質が高く,信頼できるメーカーの製造したものを選ぶしかなさそうです.
また,凝着摩耗による被膜の劣化も避けられません.被膜が薄くなると,ピンホールも発生しやすくなりそうです.表面層の被膜が厚く,表面層には硬質材が入っていないものを,選ぶ必要がありそうです.
その他の要因については,使い方で回避できそうなので,あまり重要ではなさそうです.
★ふっ素樹脂コーティングを長持ちさせるには
ふっ素樹脂コーティングを長持ちさせるには,以下の注意が必要になりそうです.
●使い方に関して
・調理中や洗浄中,収納時に,硬い器具(金属ヘラ,陶器類,他の鍋)との接触は避ける.
・空だきや強火での使用は,避ける.
・使った後は,よく洗う.
・長期間の使用による損傷は,ある程度仕方ないと,あきらめる.
●選び方に関して
・信頼できるメーカーのものを選ぶ.
・硬質層を含むコーティングがなされたものを選ぶ.
・最上層のコーティングが硬質層でなく,被膜の厚さが厚いものを選ぶ.
【今回の結論】
ふっ素樹脂コーティングは,「必ずはがれるもの」と認識したほうが良さそうです.
少しでも長く使うには,信頼できるメーカーの製品を用いることが,確実な方法のようです.
ご訪問ありがとうございます.応援よろしくお願いします.
↓↓↓↓↓↓↓↓

にほんブログ村
- 関連記事
-
-
★耐熱ガラスは,どれくらい強い?~表面応力の比較 2011/10/25
-
★割れにくいガラス食器~耐熱ガラスと強化ガラス 2011/10/24
-
★ふっ素樹脂がはがれる原因は?~フライパンのFTA 2011/10/17
-
★硬質層の位置が耐久性の鍵!~ふっ素樹脂フライパン 2011/10/15
-
★コーティング種類の違いは?~ふっ素樹脂フライパン 2011/10/14
-


![]() |
|
![]() フリクション機械屋さん。
ひょっとしてここの話ではありませんか? https://www.researchgate.net/publication/295966601_Selection_and_how_to_use_recent_cold_work_tool_steel_for_higher_level_craftsmen_and_women 清水バイク | URL | 2016/07/29/Fri 18:48 [編集]
|

| ホーム |