家と子供と、今日のおじさん(仮)

2017年築の家で、妻+子供3人と過ごす記録です。ほのかに工学テイスト。


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 料理をするとき、調味料を入れる順番は「さしすせそ」が良いと、よく言われます。これは、ご存知の通り、砂糖、塩、酢、醤油(せうゆ)、味噌、の文字を並べたものです。では、なぜ、この順番が良いのでしょうか? あるいは、「ダシ」は、いつ入れるのが適切なのでしょうか? こうした疑問にこたえるべく、「拡散係数」を用いた説明を試みたのが、今回の「今日のおじさん・アンコール」です。初出2011/5/30。


【今日の料理工学・アンコール】 味付けの順序は「さしすせそ」~砂糖と塩の拡散係数
 前回は,味の染みの速さを決定付ける「拡散係数」に,温度が与える影響を考察しました.
 そして今回は,調味料の種類による,拡散係数の違いを,調べてみます.


★分子量が小さいほど、染みやすい!
 文献[1]によると,拡散係数は,分子量が大きい物質ほど,小さくなるとのことです.

[1]小竹;調理と塩の科学,ソルトサイエンスシンポジウム講演資料,(2010)
https://www.saltscience.or.jp/event/saltscience-simposium/simpo-index.htm
 
 文献[1]に掲載されたグラフのデータを拝借して,分子量と拡散係数の関係を図示した結果を,図1に示します.図1には,次の物質の,濃度1.0Mでの自己拡散係数(水溶液中を分子が拡散するときの拡散係数)が,示されています..(グラフから目視で数値を読み取ったため,不正確かもしれません.)
 ・食塩(Na+,Cl-)
 ・エタノール
 ・酢酸
 ・グリシン(アミノ酸の一種)
 ・β-アラニン(アミノ酸の一種)
 ・ショ糖(スクロース)
<図1>
z20110530z1.jpg
 図1から,自己拡散係数D[m^2/s]は,おおよそ次式1で近似できます(図中の赤線で示す).

<式1>
 D=44×10^-9/m
 ここで,m:物質の分子量

 つまり,拡散係数は,概ね,物質の分子量に反比例すると言えそうです.


★食塩は、砂糖より3倍速く染みる!
 では,よく使う調味料の分子量は,どれくらいなのでしょうか.以下の物質について,調べてみました.
 ・ショ糖(スクロース) …砂糖の主成分;甘味の代表として
 ・塩化ナトリウム …塩の主成分;塩味の代表として
 ・酢酸 …酢に含まれる;酸味の代表として
 ・グルタミン酸 …味の素に含まれる;うま味の代表として
 ・カフェイン …コーヒーに含まれる;苦味の代表として
 ・カプサイシン …唐辛子に含まれる;辛味の代表として
 ・エタノール …酒に含まれる

 これらの分子式を,図2に示します.参考文献は,ウィキペディアの記載と,文献[2]です.
[2]武村ほか;マンガでわかる生化学,オーム社,(2009)
<図2>
z20110530z2.jpg
 ・塩化ナトリウム: Na+,Cl-
 ・カフェイン:C8 H10 N4 O 2
 ・カプサイシン:C18 H27 N O3

 分子量を計算した結果を,下図3に示します.
 ※カフェインやカプサイシンは,水には溶けにくいようですので,比較する意味がなかったかもしれません.
<図3>
z20110530z3.jpg
 この結果から,食塩とショ糖では,分子量に約10倍の差異があります.よって,式1から,拡散係数Dは,食塩のほうが,ショ糖よりも約10倍大きいと推定されます.また,前回述べた通り染みる速度∝√Dでした.したがって,食塩のほうが,ショ糖よりも約3倍速く染みると予測できます.


★調味料の順番「さしすせそ」を拡散係数で説明!
 さて,煮物で調味料を加える手順について,「さしすせそ」というものがあります[3].これは,
 ・さ:砂糖
 ・し:塩
 ・す:酢
 ・せ:しょうゆ(せうゆ)
 ・そ:みそ
の順で,調味料を入れるとよい,という,古くからの教えだそうです.

[3]雁屋ほか;美味しんぼ68巻,小学館,(1999)

 砂糖を先に,塩を後に,というのは,上述の「塩よりも砂糖は染みにくい」ことから説明できます.つまり,先に砂糖を入れ,しばらく後に塩を入れると,煮え終わる頃には,砂糖も塩も良い具合に染みている,ということでしょう.「砂糖は染みるまでに塩の約3倍かかる」ということを念頭におくと,さらに味付けがうまくいくかもしれません.

 しかし,酢・しょうゆ・みそを入れる順序については,拡散係数では説明できません.インターネット上の色々な記述を参照してみると,以下のような理由が,もっともらしく思えます.すなわち,酢・しょうゆ・みそは,香りが大事である,しかし,あまり長く煮ると,香りが飛んでしまう,ということです.
 また,酒は,さしすせその中には入っていませんが,最初に入れるのが良いようです.これは,素材の臭みをとったり,素材を柔らかくしたりする効果があるため,と説明されています.

[4]ヤマキHP;かつお節・だし研究所
 https://www.yamaki.co.jp/laboratory/labo05.html


【今回の結論】
 砂糖は,塩よりも分子量が大きいため,染みるのに時間がかかります.
 このため,煮物では,砂糖を先に,塩を後に入れるのが良い,と言われることがあるようです.


(補足)
 さしすせその順番の根拠として,「最初に塩味をつけると,身がしまって他の味が入りにくくなる」という説があります[3].しかし,当方が調べてみた限り,この説を裏付けるような,有力な根拠は見つかりませんでした.ですので,ここでは,砂糖と塩の染みる速度の違いだけについて,言及することとしました.


(補足2)
 「味の素」(グルタミン酸ナトリウム)は,どのタイミングで入れるべきでしょうか?
 図3を見ると,グルタミン酸の分子量は,砂糖と塩の中間です.よって,染みやすさを考えると,砂糖と塩の間がよさそうに思われます.しかし,私の場合,最初から味の素(を含んだダシの素)で煮ることが多いような気がします.(さらに言えば,最初から,砂糖と塩としょうゆとダシを混ぜたもので煮ることが多い気がします.)


(補足3)2011/5/31
 昆布のうまみはグルタミン酸,かつおぶしのうまみはイノシン酸,とのことです[4].イノシン酸の分子量は,348ですので,ショ糖とほぼ同等です.したがって,かつお系のダシの素を最初に入れるのは,妥当な選択と思われます.


(補足4)2013/4/8
 この記事で用いた拡散係数の近似式<式1>の出典について、質問を頂きました。
 元データの文献[1]のリンクが切れています。現在は、以下[5]にて、参照が可能です。
[5]https://www.saltscience.or.jp/symposium/3-odake.pdf

 この文献の図3のデータを用いました。このデータから、分子量は各物質の値を用いて、拡散係数は目視で読み取ります。そして、結果を最小二乗法でカーブフィットしたのが、<式1>です。つまり、近似式は「当ブログ独自の式」です。がっかりさせて、ごめんなさい。(もちろん、 「マツジョンの式」として、ご自由に引用してくださって結構です。あ、遠慮なさいますか、そうですか。)

 ちなみに、文献[1]の図3のデータも、元は別文献の値のようです。詳しくは、文献[1]をご参照ください。


【バックナンバー】
煮物編・前の記事:温度と染みる速度
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