【今日の料理】 2011/6/1 夕食
今日は,妻が歯医者に行き,歯を詰めて帰ってきました.歯に違和感を感じるようで,固いものは,あまり食べたくないとのことです.そこで,妻のリクエストにより,今晩は,うどんにしました.いつもいつも思うのですが,私は,たいへんに妻思いな,善良な夫だと思います.
娘(3.7ヶ月)は,風呂の後,ギャン泣きしていました.しかし,しばらくして入眠しました.寝る前のひと泣きが,すっかり定着してしまったようです.今は,ぐっすり寝ています.
★うどん
具は,人参・まいたけ・ほうれんそうを,ダシ汁で煮たものです.汁は,ヤマサ昆布つゆを6倍にうすめ,加熱後かつお節を加えました.うどんは,1袋=38円の,格安うどんです.格安なりの味でした.ゆでうどんなので,ゆでる前からコシが抜けた感じです.
妻のコメント:「うどんのコシが,いまひとつでした.次回は,冷凍うどんを用いると,一層よくなると思います.」冷凍うどんには,タピオカ(キャッサバ)でんぷんが入っているため,独特のコシがあるそうです[1].妻と私と,共働きだった頃は,冷凍うどんを常備していたのですが,最近は買っていません.
[1]木下製粉HP;製造方法の違いによるうどんの味の違い,新着情報#93
https://www.flour.co.jp/01_update/ud_001_100.html
★なめこ大根おろし
大根おろしと,ダシ汁で煮たなめこを混ぜました.うどんにかけて食べました.
なめこが少し痛んでいるのか,僅かに,すえたにおいがしました.なめこは,何度も痛んだものを買ってしまった経験から,よく選んで買ってきているつもりなのですが,未だに目利きができません.
★かつお刺身
「本日朝とれ」の品です.298円と,我が家にしては,ぜいたく品です.しかし,さすがに新鮮なだけあって,とても美味でした.しょうが・ねぎ・ポン酢しょうゆで,食しました.食感も,味も,たいへん良かったです.
【今日の料理工学】 煮物の「双子の物理現象」~温度の上昇と味の染み
前回まで,煮物における「味の染み」について,考察してきました.
今回は,少し視点を変えて,煮物の初期の段階である,材料の温度が上がる現象について,考えてみたいと思います.
図1のように,十分厚い材料の片面が,温度T0[℃](一定)のゆで汁に接している状態を考えます.
<図1>

このとき,材料内部の温度T[℃]の分布および時間変化は,次式1の熱伝導方程式に支配されます.
<式1>

ここで,
x:位置[m]
t:時間[s]
D:温度伝導率[m^2/s]=λ/ρ・c
λ:熱伝導率[W/m・K]
ρ:密度[kg/m^3]
c:比熱[J/kg・K]
ところで,「味の染み」の基礎式である,拡散方程式は,次式2でした.
<式2>

ここで,
c:濃度[kg/m^3]
x:位置[m]
t:時間[s]
D:拡散係数[m^2/s]
式1と式2を比較すると,全く同じ形をしていることが分かります.つまり,材料の「温度の上昇」と,「味の染み」は,類似した物理現象と考えられます.
ところが,「温度の上昇」と,「味の染み」では,大きく異なる点があります.
それは,係数Dのオーダー(桁数)です.係数Dは,例えば,次のような桁数になります.
・温度の上昇:水の場合,温度伝導率D≒10^-7[m^2/s] … [2]
・味の染み:温度25℃,濃度1Mの食塩水中を食塩が広がる場合,拡散係数D≒10^-9[m^2/s] …[3]
[2]畑村編;続・実際の設計,日刊工業新聞社,(1992)
[3]小竹;調理と塩の科学,ソルトサイエンスシンポジウム講演資料,(2010)
https://www.saltscience.or.jp/event/saltscience-simposium/simpo-index.htm
つまり,温度の上昇の係数Dは,味の染みの係数Dよりも,約100倍大きいのです.先の検討から,ほぼ,伝達の速度∝√Dでした.したがって,温度の上昇は,味の染みよりも,約10倍速く進む,と推定されます.
このように,両者の係数が大きく異なる理由は,以下のように説明できそうです.
・温度とは,材料を構成する原子の熱運動(熱振動)と考えられる.そして,温度の伝達は,原子の熱振動が,隣から隣へと伝わっていくことと考えられる.したがって,原子が移動しなくても,エネルギーだけが次々に伝わっていくことが可能である.このため,温度の伝達(温度の上昇)の速度は,比較的速いと推察される.
・味が染みるためには,調味料の分子が,材料内部の隙間をかきわけながら,奥へと進んでいかなければならない.分子は質量を持つから,移動するためには,時間を要する.また,材料との干渉もあり,スムーズには進めない.このために,味の染みの速度は,比較的遅いと推察される.
実際に,温度の上昇と味の染みの速度が,どの程度違うか,比べてみます.
下図2のようなモデルを考えます.厚さhの材料の両面が,調味液に接しています.
<図2>

以下を仮定します.
・調味液の温度はT0=100[℃]で一定.
・調味液の濃度はc0[kg/m^3]で一定.
・材料の初期温度は,T=0.2×T0=20[℃]とする.
・材料の初期濃度は,c=0[kg/m^3]とする.
また,物性値などは,以下を用います.
・温度の上昇の係数:D=1.4×10^-7[m^2/s]…以下から計算
・材料の熱伝導率:λ=0.6[W/m・K]…水の値[2]
・材料の密度:ρ=1000[kg/m^3]…水の値[2]
・材料の比熱:c=4200[J/kg・K]…水の値[2]
・味の染みの係数:D=1.5×10^-9[m^2/s]…温度25℃,濃度1Mの食塩水中の食塩の値[3]
・材料の厚さ:h=15[mm]
※味の染みの係数Dは,温度の上昇に伴って増大します.しかし,以前の検討より,その変化の幅は小さいことが分かっています.このため,ここでは,温度25℃での値を用いて,温度上昇の影響は無視することにしました.
以上の値を用いて,式1および式2を,数値計算で解きました.数値計算の方法は,以前と同様の方法を用いました.
さて,結果です.
下図3は,温度の上昇の計算結果です.横軸に位置x[mm],縦軸に温度T/T0を示しました.また,複数の時間tについて,線の色を変えて示してあります.
<図3>

この結果を見ると,t=600[s](=10[min])で,材料全域が,ほぼ温度T0になっていることが分かります.
下図4は,味の染みの計算結果です.横軸に位置x[mm],縦軸に濃度c/c0を示しました.また,複数の時間tについて,線の色を変えて示してあります.
<図4>

この結果を見ると,t=600[s](=10[min])でも,材料の表面から約1mmの地点で,やっと濃度c=0.5c0程度になったに過ぎません.味が染みるまで,まだまだ時間がかかりそうです.
以上のように,「温度の上昇」と「味の染み」は,似た経過をたどる物理現象ですが,その進行のスピードは,大幅に異なっています.このため,煮物の調理では,まず温度が上がり,その後材料が煮え(柔らかくなり),最後に染みが進む,という順に,調理が進んでいくと考えられます.
(補足) 2011/6/3
「温度の上昇」と「味の染み」の数値解析について,より正確と思われる記述が,文献[3]にありました.
[3]東京工業大学化学専攻・伊東研,化学工学資料のページ
https://chemeng.in.coocan.jp/
【今回の結論】
「温度の上昇」を支配する熱伝導方程式と,「味の染み」を支配する拡散方程式は,同じ形をしています.したがって,これらの物理現象は,同様の経過をたどると考えられます.
しかし,「温度の上昇」は,「味の染み」よりも,大幅に速いスピード(約10倍)で進行します.
【バックナンバー】
煮物編・前の記事:煮えと染み
煮物編・次の記事:煮物内の現象まとめ
煮物編・一覧へ
今日は,妻が歯医者に行き,歯を詰めて帰ってきました.歯に違和感を感じるようで,固いものは,あまり食べたくないとのことです.そこで,妻のリクエストにより,今晩は,うどんにしました.いつもいつも思うのですが,私は,たいへんに妻思いな,善良な夫だと思います.
娘(3.7ヶ月)は,風呂の後,ギャン泣きしていました.しかし,しばらくして入眠しました.寝る前のひと泣きが,すっかり定着してしまったようです.今は,ぐっすり寝ています.
★うどん
具は,人参・まいたけ・ほうれんそうを,ダシ汁で煮たものです.汁は,ヤマサ昆布つゆを6倍にうすめ,加熱後かつお節を加えました.うどんは,1袋=38円の,格安うどんです.格安なりの味でした.ゆでうどんなので,ゆでる前からコシが抜けた感じです.
妻のコメント:「うどんのコシが,いまひとつでした.次回は,冷凍うどんを用いると,一層よくなると思います.」冷凍うどんには,タピオカ(キャッサバ)でんぷんが入っているため,独特のコシがあるそうです[1].妻と私と,共働きだった頃は,冷凍うどんを常備していたのですが,最近は買っていません.
[1]木下製粉HP;製造方法の違いによるうどんの味の違い,新着情報#93
https://www.flour.co.jp/01_update/ud_001_100.html
★なめこ大根おろし
大根おろしと,ダシ汁で煮たなめこを混ぜました.うどんにかけて食べました.
なめこが少し痛んでいるのか,僅かに,すえたにおいがしました.なめこは,何度も痛んだものを買ってしまった経験から,よく選んで買ってきているつもりなのですが,未だに目利きができません.
★かつお刺身
「本日朝とれ」の品です.298円と,我が家にしては,ぜいたく品です.しかし,さすがに新鮮なだけあって,とても美味でした.しょうが・ねぎ・ポン酢しょうゆで,食しました.食感も,味も,たいへん良かったです.
【今日の料理工学】 煮物の「双子の物理現象」~温度の上昇と味の染み
前回まで,煮物における「味の染み」について,考察してきました.
今回は,少し視点を変えて,煮物の初期の段階である,材料の温度が上がる現象について,考えてみたいと思います.
図1のように,十分厚い材料の片面が,温度T0[℃](一定)のゆで汁に接している状態を考えます.
<図1>

このとき,材料内部の温度T[℃]の分布および時間変化は,次式1の熱伝導方程式に支配されます.
<式1>

ここで,
x:位置[m]
t:時間[s]
D:温度伝導率[m^2/s]=λ/ρ・c
λ:熱伝導率[W/m・K]
ρ:密度[kg/m^3]
c:比熱[J/kg・K]
ところで,「味の染み」の基礎式である,拡散方程式は,次式2でした.
<式2>

ここで,
c:濃度[kg/m^3]
x:位置[m]
t:時間[s]
D:拡散係数[m^2/s]
式1と式2を比較すると,全く同じ形をしていることが分かります.つまり,材料の「温度の上昇」と,「味の染み」は,類似した物理現象と考えられます.
ところが,「温度の上昇」と,「味の染み」では,大きく異なる点があります.
それは,係数Dのオーダー(桁数)です.係数Dは,例えば,次のような桁数になります.
・温度の上昇:水の場合,温度伝導率D≒10^-7[m^2/s] … [2]
・味の染み:温度25℃,濃度1Mの食塩水中を食塩が広がる場合,拡散係数D≒10^-9[m^2/s] …[3]
[2]畑村編;続・実際の設計,日刊工業新聞社,(1992)
[3]小竹;調理と塩の科学,ソルトサイエンスシンポジウム講演資料,(2010)
https://www.saltscience.or.jp/event/saltscience-simposium/simpo-index.htm
つまり,温度の上昇の係数Dは,味の染みの係数Dよりも,約100倍大きいのです.先の検討から,ほぼ,伝達の速度∝√Dでした.したがって,温度の上昇は,味の染みよりも,約10倍速く進む,と推定されます.
このように,両者の係数が大きく異なる理由は,以下のように説明できそうです.
・温度とは,材料を構成する原子の熱運動(熱振動)と考えられる.そして,温度の伝達は,原子の熱振動が,隣から隣へと伝わっていくことと考えられる.したがって,原子が移動しなくても,エネルギーだけが次々に伝わっていくことが可能である.このため,温度の伝達(温度の上昇)の速度は,比較的速いと推察される.
・味が染みるためには,調味料の分子が,材料内部の隙間をかきわけながら,奥へと進んでいかなければならない.分子は質量を持つから,移動するためには,時間を要する.また,材料との干渉もあり,スムーズには進めない.このために,味の染みの速度は,比較的遅いと推察される.
実際に,温度の上昇と味の染みの速度が,どの程度違うか,比べてみます.
下図2のようなモデルを考えます.厚さhの材料の両面が,調味液に接しています.
<図2>

以下を仮定します.
・調味液の温度はT0=100[℃]で一定.
・調味液の濃度はc0[kg/m^3]で一定.
・材料の初期温度は,T=0.2×T0=20[℃]とする.
・材料の初期濃度は,c=0[kg/m^3]とする.
また,物性値などは,以下を用います.
・温度の上昇の係数:D=1.4×10^-7[m^2/s]…以下から計算
・材料の熱伝導率:λ=0.6[W/m・K]…水の値[2]
・材料の密度:ρ=1000[kg/m^3]…水の値[2]
・材料の比熱:c=4200[J/kg・K]…水の値[2]
・味の染みの係数:D=1.5×10^-9[m^2/s]…温度25℃,濃度1Mの食塩水中の食塩の値[3]
・材料の厚さ:h=15[mm]
※味の染みの係数Dは,温度の上昇に伴って増大します.しかし,以前の検討より,その変化の幅は小さいことが分かっています.このため,ここでは,温度25℃での値を用いて,温度上昇の影響は無視することにしました.
以上の値を用いて,式1および式2を,数値計算で解きました.数値計算の方法は,以前と同様の方法を用いました.
さて,結果です.
下図3は,温度の上昇の計算結果です.横軸に位置x[mm],縦軸に温度T/T0を示しました.また,複数の時間tについて,線の色を変えて示してあります.
<図3>

この結果を見ると,t=600[s](=10[min])で,材料全域が,ほぼ温度T0になっていることが分かります.
下図4は,味の染みの計算結果です.横軸に位置x[mm],縦軸に濃度c/c0を示しました.また,複数の時間tについて,線の色を変えて示してあります.
<図4>

この結果を見ると,t=600[s](=10[min])でも,材料の表面から約1mmの地点で,やっと濃度c=0.5c0程度になったに過ぎません.味が染みるまで,まだまだ時間がかかりそうです.
以上のように,「温度の上昇」と「味の染み」は,似た経過をたどる物理現象ですが,その進行のスピードは,大幅に異なっています.このため,煮物の調理では,まず温度が上がり,その後材料が煮え(柔らかくなり),最後に染みが進む,という順に,調理が進んでいくと考えられます.
(補足) 2011/6/3
「温度の上昇」と「味の染み」の数値解析について,より正確と思われる記述が,文献[3]にありました.
[3]東京工業大学化学専攻・伊東研,化学工学資料のページ
https://chemeng.in.coocan.jp/
【今回の結論】
「温度の上昇」を支配する熱伝導方程式と,「味の染み」を支配する拡散方程式は,同じ形をしています.したがって,これらの物理現象は,同様の経過をたどると考えられます.
しかし,「温度の上昇」は,「味の染み」よりも,大幅に速いスピード(約10倍)で進行します.
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引越し前の住所(BIGLOBE)で頂いたコメントです.
----------
気持ち玉ありがとうございました。
お料理、凄いですね。栄養をちゃんと考えてあるのが素晴らしいです!
なめこの失敗、悲しいですね。私は粘々好きなのでめかぶ&大根おろし&納豆をトッピングしてます
その後の料理工学は難しすぎます・・・
k-yu-k
2011/06/02 09:01
----------
>k-yu-kさん
コメントありがとうございます。
k-yu-kさんのブログを拝見し、オーボールが楽しそうだったので、早速たまっていたパンパースポイントで発注しました。到着が楽しみです。
バンボチェアも便利そうだと、妻にねだられています。うちの子も3ヶ月過ぎですが、最近は縦抱っこが好みのようです。
※料理工学は妻にも呆れられていますので、どうぞ無視してください。
マツジョン
2011/06/02 09:59
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気持ち玉ありがとうございました。
お料理、凄いですね。栄養をちゃんと考えてあるのが素晴らしいです!
なめこの失敗、悲しいですね。私は粘々好きなのでめかぶ&大根おろし&納豆をトッピングしてます
その後の料理工学は難しすぎます・・・
k-yu-k
2011/06/02 09:01
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>k-yu-kさん
コメントありがとうございます。
k-yu-kさんのブログを拝見し、オーボールが楽しそうだったので、早速たまっていたパンパースポイントで発注しました。到着が楽しみです。
バンボチェアも便利そうだと、妻にねだられています。うちの子も3ヶ月過ぎですが、最近は縦抱っこが好みのようです。
※料理工学は妻にも呆れられていますので、どうぞ無視してください。
マツジョン
2011/06/02 09:59
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